#文披31題に参加し、2022年7月1日から31日まで毎日一題のお題をもとに、『鳥とわたし』の日々をTwitter・おはなし手帖で綴り、それに手を加え『とりとめもない日々』としてまとめました。
[ 更新 ]
2022/8/14「鳥のいた日々」改題・「とりとめもない日々」
2022/8/21 テキスト修正
2022/9/3 テキスト修正
2022/9/5 テキスト修正
2022/9/18 テキスト修正
Day01_鳥の来た日
鳥をうちに泊めることになった。
夕暮れる窓辺で縮こまっていたら、いきなり鳥が飛びこんできたのだ。
写真立てをかすめて、ドライフラワーを落として、部屋をぐるぐる回る鳥の羽ばたきに驚いていると、「サイダーを用意して」と鳥は私の頭に着地した。
「グラスには氷をたっぷり。ほら、ミントも浮かべなきゃ」
呆気にとられる私がその通りにするまで、背中やら肩やら、鳥はつついてきた。「氷をもっと」とか「ミントがないなんて、そんなバカな」とか、静かな声で騒がしい。そうしてできた冷たいグラスを鳥へ差し出したら「あなたが飲むんです」と云われた。
「喉、乾いてないよ」
「あなたに足りないのはサイダーみたいなものだと思います」
しゅわわ、と泡がはじけて、ぬるい風にカーテンがゆれると、どこかから子どものはしゃぐ声が聞こえてきて、無性に泣きたくなった。
近頃、泣きたくなることがあっても、どうやったら涙が流れるのかわからない。そうすると、どうしようもなくて、膝を抱えてうずくまるしかない。
宵の景色をグラス越しに見れば、まるで涙の世界にいるみたいだった。
「うちに泊まっていかない?」
泣く方法を思い出せそうな気がして、つい云ってしまったのだ。
「鳥カゴも持ってなくて申し訳ないんだけど」
「清潔な棉があれば充分です」
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Day02_金魚の町
鳥が教えてくれた。
ふた駅向こうの街の人らがあんまり嘘を吐いて騙しあっているので、神さまが怒って、嘘を云うたび口から金魚が飛び出るようにしてしまったのだそうだ。
どんなものかと見物に行ったら、真っ赤な尾鰭がひらひらと、きれいにいくつも宙を泳いでいた。
みんな大道芸人みたいに次々金魚を吐いて、いっそ愉快な様子だった。けれど、そのうち、嘘をついた人が金魚になって、金魚が人間になって、すっかり入れ替わるのを目撃した。そうなると、通りすがる人が人間なのだか金魚なのだか知れない。
気味が悪くなってうちに逃げ帰った。
「あれは神さまの仕業じゃないと思うよ」
「そうですか? じゃあ病気かな」
「病気だとしたら、神さまの仕業かなあ」
「どうして?」
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Day03_謎
昼寝から起きたら、頬に鳥の足跡が残っていた。
でも、どうにもうちに滞在している鳥の足よりも大きいのだ。
「私が寝ている間に、誰かお客さん来た?」
「誰も」
ところで、鳥はスイカ好きみたい。
朝の仕事から戻って眠りにつく前、スイカを切っておいてあげたら、まるっとみんな平らげてしまった。種もすっかりなかった。
……本当に誰も来てない?
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Day04_問答
「雨はすごいですねえ、神さまの高さから飛んでくるんだもの。どんな羽を持っているんでしょう」
びりっと窓をふるわせる雷を怖がりながらも、鳥はしきりに雨を褒めている。
どうやら自分が飛べない場所はみんな『神さまのいるところ』と信じているのだ。
「でも、君のいるところにだって、神さまはいるのじゃないかな」
「だって、見えないし、聞こえません」
「見えなくて、聞こえないものじゃないかな」
私も鳥も神さまと会ったことがない。
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Day05_線香花火
窓辺でビールを飲みながら書き物をしていたら、星がパチパチっと火花をまとって、とろり、溶けて落ちてきた。
ひとつ、ふたつ、みっつ······
パチパチ、とろり。
星々の線香花火だ。
寝床にいた鳥を呼び寄せた途端、空はぴたりと静かになった。
「今、星が花火みたいになってきれいだったんだよ」
「欠けた星座はないようですけど」
「ほんとうなんだよ」
「まあ、星は星で、きれいですけどね」
ちらり、と鳥は文机の350cc缶を見やった。
私は鳥と違って、たった5%のアルコールなんかでは酔えないのに。
上弦の月が我関せずと冷ややかな態度だった。
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Day06_鳥の絵
鳥が尾羽に絵の具をひたして、壁に絵を描いた。
「僕、少し心得があるのです」なんて云って、絵の具を上手に混ぜた。
なになんだかよくわからない絵だ。
嫌いでも苦手でもないけれど好きでもない。
雨の降りそうな窓辺にも、夕暮れの群青にも、女の子の悲しみにも見える。
「どうです?」と感想を聞かれて大変困った。
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Day07_名前のない星
夜半を過ぎても鳥が戻らないから、窓を開けたままにしている。
約束があるのだと云って飛んで行った。
冷蔵庫が鳴っている。
ひとりの夜はこんなだったな。
足もとがぜんぶ透けて、宇宙へ浮かぶような。
名前のない星になったような頼りなさ。
ハチミツコーヒーを飲むべし。
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Day08_冷蔵庫が鳴る
今夜も鳥が戻らない。
あの夕暮れ、鳥が窓からやって来て一週間。まだたった一週間なのにすっかり馴染んでしまった。
生き物は怖い。
元々、犬のぶ厚い愛情には耐えられない。私では応えきれない。
猫がいちばん怖い。以前、ハチワレ猫と暮らしていた。猫がいなくなってしまった空洞はそのまま。
犬や猫に比べれば、鳥なら、まだ大丈夫。
そう。風と同じと思えばいい。捕えておけるものじゃない。羽のある生き物。私には届かない梢をゆらす生き物。行くも帰るもお好きにどうぞ。そう思えばいい。だから、戻ってこなくても、鳥の自由。
なのに、なんども砂時計を逆さに返して、時間を数えてしまう。
さらさら、砂つぶが流れて、ますます冷蔵庫の音がよく響く。
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Day09_おかえり
ひんやり、おしぼりで目を隠されて休んでいた。
目隠しされているのに、白い手が団扇で風を送ってくれているのや、襖の向こうで大人たちが何事かを深刻そうに話し合っているのを知っていた。私は中学の制服を着ていた。
油蝉がなにもかも焦がすように鳴くものだから、とうとう襖が燃え始めた。大人たちも燃えあがり、その中に猫が横たわっているのがわかり、猫を助けなければと思った。
そこで、羽ばたきが聞こえて目覚めた。
夢の中の白い手は叔母だったのだと思う。顔を忘れてしまったくせに、一緒に金魚すくいをしたときの、紺色の浴衣から伸びた白い手首を覚えている。
油汗が流れて、喉がひりひりと痛んだ。
鳥が水を飲んでいるのを見て、胸に、しゅわしゅわとなにかが湧いてきた。
「おはようございます」と鳥が云うので「おかえり」と応えた。
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Day10_くらげ
鳥が不在のあいだ、ふらりと海へ出かけて、くらげに刺されてしまった。
今日になってその皮膚が青く透けてぷるぷるとふくらんできた。
「ゼリーみたいですね」
鳥がつつくと、破れた穴から、ぬらり、青白いくらげが現れて、網戸をすり抜けて逃げて行った。
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Day11_ピクニックの計画
太陽は夏になると地球へにじり寄ってくる気がする。
あまり近づかれると暑くてかなわない。
石の街、蜥蜴一匹、這う私。
真昼の信号待ちは、点字ブロックに真っ黒く焦げついてしまいそうだった。蝉が鳴いているのか、耳鳴りがしているのか、わからなくなった。ビルの影にオアシスの幻が重なった。
緑のしたたる川辺で涼みたい。
今度、鳥を誘ってピクニックに行こう。
バスケットにはソーダとポップコーンを用意する。
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Day12_鳥の世界
電線で、鳥がカラスからなにかを受け取るのを目撃した。
確かに目が合ったのに、鳥はよそゆきの顔をして、カラスと密談をつづけた。
カカカカ、とカラスが高く笑って、なんだかとっても傷ついた。
戻ってきた鳥は、昼間の冷たい態度なんてなかったような様子だった。それにもちょっと傷ついた。
いつだか、私の頬を踏みつけたのは、あのカラスだったのじゃないか。
そう疑ったら、頬から笑い声が響いてくるみたいだ。
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Day13_切手
外国の古い切手が好きだった。
それは時も場所も、ここから遠い。
切手に触れた指先、封じられた手紙の内容、私が絶対に知りえないこと。
学生時代、集めるというほどではないけれど、古書店や蚤の市なんかで切手を見かけると、つい買ったものだった。
それを思い出して探してみたら、クローゼットの隅から切手の収集箱が見つかった。猫がいなくなって引っ越しをしたとき、いろいろを処分した。捨てていないものもあったのだ。
はるか海の向こうから旅してきた、この紙片たち。眺めていると、私をあの頃へ連れて行ってくれる気がする。
窓辺の文机で小箱を広げていると、鳥が関心を示したので、この紙片を貼ると郵便屋さんが相手に届けてくれるのだと教えた。鳥は「それはすばらしい。貴重なチケットですね」と重々しく頷いた。ふと思いついて尋ねた。
「君が別の人と暮らすとき、手紙を書いてもいい?」
すると、すん、と毛を逆立てて、鳥は棚に隠れてしまった。
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Day14_鳥の成分には疑問がある
昼になって、やっと鳥が棚から出てきた。
食卓に降りるなり、スイカにクチバシをざくざくと立てた。
「なんで怒ったの?」
わからなかったので訊いただけなのに、鳥はまた怒った。こんなに回るものかと驚くほど、勢いよく首を回して私を見上げた。
「あなた、鳥はね、涙でできているんですよ」
「涙で?」
「そう、涙と、歌と、月と、そういうものでできてるんです。だからです」
だからです、と云われても、まったくわからなかった。私がわからないのが鳥にはわかったみたいで、こう云われた。
「あなたに足りないのは、やっぱりサイダー。もしも、別の鳥と暮らす時には、あんな風には言わないであげてください。いつでも目の前の鳥だけって顔をしてあげてください。あなたは変に正直だから、難しいかもしれないですけど」
「気をつける」
「そうしてください。鳥のハートの取り扱いには注意して」
まじめくさって言って、鳥は種をまるっと飲みこんだ。
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Day15_炭酸水ではだめなのか
グラスになみなみと炭酸水をそそぎ、氷がはじけるのを観察する。
私に不足しているのは、サイダー?
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Day16_傘の世界
小雨のなか、鳥と散歩に出た。
ひとのいない公園でブランコがゆれていた。
「まるでこの世の果てに来たようですね」
どことなく、嬉しげに、鳥が言った。
「そうだね」
なんとなく、嬉しく、私は応えた。
果ての公園、傘の世界に住む私たち。
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Day17_呼び名
私は鳥に名前をつけないし、鳥も私の名前を知らない。
名前をつけるのは、怖いこと。
ハチワレのあの子を失ってから、名前を呼ぶことが怖くなった。
ふたりだけなら呼び名は必要ないけれど、それも怖いことに感じる、この頃。
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Day18_カモメ
鳥が壁に描いた絵を眺めていたら、群青の一線が、空と海の境に見えてきた。
鉛筆でカモメを描き添える。
「これは、私」
つぶやくと、肩甲骨から翼がむくりと起き上がる気がした。
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Day19_飛べない私
夏の月は溶けてしまうことがある。
町内会では、もしもの事態に備え、月齢ごとに当番を決め、各自の冷凍庫でスペアの月を製造している。
それをアイスとまちがって食べたため、宙に浮かんで降りられなくなった。天井に頭をつけてなんとか移動する私の周りを、鳥がハタハタと騒がしく飛んだ。
「飛び方を教えましょう、こうです、こうです」
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Day21_短夜
私の仕事は〈途切れた夢〉の捕獲。
明け方、結末のない夢がそこかしこに転がったり、浮かんだりしている。
捕まえた夢は、白紙の本に挟む。だんだん夢はページに沁みこんで、色に変わり、図案に変わり、文字に変わる。一冊まとまると、社へ提出する。
夏の短夜、フィルムのヒトコマだけのような夢には買い手が多いと上司が言っていた。だから今は稼ぎ時。丑三つ刻から町を駆け回る。
中には、自分の夢を絶対に手放したくないという人がいる。彼らは枕元に専用の手帳を置いて、目覚めると共に手帳に記録する。でも、窓から出ていってしまうことはある。私はそれを見つけるのがうまい。塀伝いに歩き、逃げる夢の気配を察知して、素早く網に絡める。時々、夢の主に追いかけられる。おおよそ彼らは寝起きでふらついているので、私が負けることはない。背中に投げられた「どろぼう」と悲しげな声が忘れられない。
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Day22_メッセージ
画集を眺めていると、鳥が、気に入ったページに羽根を落としてよこす。
あとになって、栞となった羽根を見つけるとき、うつくしいものを惜しみなく讃える羽ばたきの、軽やかな明るい音がページからあふれて聞こえる。
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Day23_ひまわり
暑さに耐えかねた人々が、ひまわりとなる現象が話題だ。
スーツを着たひまわりが、いくつもアスファルトに倒れて焦げている。
わからなくもない。鮮やかに、華やかに、ひまわりになってしまいたい。
それを鳥にぼやいたら「そうしたら種はもらっていいですか、いいですよね、約束ですよ」と、涙も歌も月もない、ぎらっとした目の輝きだった。
クチバシが尖っていて、顔をついばまれたらひどく痛そうだ。
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Day24_オセロ
外を眺めていると、みんなオセロゲームをしているみたいだ、と感じる。
白を黒に変えるのも、黒が白に変わるのも、その数を競うのも、苦手だ。
内に鳥といると、私たちは白でも黒でもない。
ここは、オセロの盤の裏。
コツン、コツン。白と黒を裏返す音が、天井から聞こえる。
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Day25_声の万花鏡
細い路地の奥で、光の屑が柱のように立っていた。
屑のひとかけらずつが、忘れられた誰かの声の一部なのだと、鳥が教えてくれた。
夜明けに散らばる、夢の破片と似ていた。
試しに、もう会えない人たちの声を思い出そうとしたけれど、だめだった。
音の欠片が混ぜこぜに散らばって、まるで幾何学模様の万花鏡。
そこに真実があるように思えて耳を澄ましても、遠くのサイレンが聞こえるばかりだった。
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Day26_標本
近頃、鳥と共通の遊びを見つけた。
からの標本箱をあいだにして、空想の植物について語り合う。
ほかに誰もいない部屋だけれど、あえてひそひそと、世間には極秘の研究としてまじめに議論し、記録は残さない。
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Day27_水鉄砲
青天、道端にオモチャの鉄砲が落ちていた。
ひまわりに向けて、バン。
プラスチックの引き金をひく。
すると、
ドッ。
と、空から雨がひとかたまり降ってきた。
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Day28_泡がのぼる
「サイダーを汲んでください」
めずらしく鳥が頼んできた。
泡がのぼってゆくを眺める後ろ姿がいつもよりも小さく見えた。
「どうかしたの?」
「いいえ」鳥は尾羽をしゃんと立て、
「とてもきれいだから。ただそれだけです」
やたら胸を張って答えたので、どうかしたんだと思う。
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Day29_おそろい
こっそり、鳥の羽色と同じ色のインクを買った。
手帳に綴るたび、私も空を飛ぶ心地だ。
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Day30_うちの
『かき氷あります』という赤い文字に誘われた駄菓子屋に、うちの鳥そっくりの鳥がいた。
暗がりの鳥カゴで、行儀よくかしこまっていた。
青い氷を食べる間、よくよく観察したが、確信が持てなかった。
夜、風鈴をかすめて帰ってきた鳥は、まっすぐ棉の寝床におさまった。
「今日駄菓子屋にいなかった?」
私が尋ねても鳥は答えず、小さな頭をからだに埋めて目をつむった。
「明日、祭りに行く?」
ちょっと大きめの声で尋ねると、目を閉じたまま、鳥は「ハイ」と返事した。
この鳥は、ときどき耳が遠くなる。ただ、遠くなるだけだから気にしない。絶対、気にしないでおこう。
ただ、「うちの鳥」という言葉に、胸がさわさわする。
いつから、そんなことを思うようになっただろう。
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Day31_たまや
どどん。
花火が爆ぜる音に驚き、鳥が私の肩から落ちた。
ぱらぱらぱら、と火花が散って、肩に戻る。そのほんのちょっとの重み。
夏が過ぎてゆく。
ひるる、どどん、ぱらぱらぱら。
一分が、一秒が、燃えては消える。
砂時計なら逆さにして繰り返せる。季節は色を変えて巡り、同じ日には戻らない。
今日、久々に取り出した浴衣に、猫のヒゲを一本見つけた。胸の空洞にしゅわしゅわと涙が湧いた。
神さま、肩にほんのちょっとの重みを感じる、とりとめもない日々を、明日も、明後日も、暮らしたいです。
花火を見上げて願ったとき、目からサイダーがこぼれた。
ひるるる、どん、ぱらららら。
「みなさんが叫ぶ、たまやーとは?」
鳥が訊いてきたので、「願いの掛け声だよ」と教えておいた。
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