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大切な存在を失う痛みについて思うこと

十数年、がんの終末期の方に関わる仕事をしていました。

猫さんロスの方のグリーフワークサポートについて考える時、その頃のことを思い出しました。

 

グリーフ、大切な存在を失うことに伴う悲しみや痛み。

それは、がん終末期の患者さんの多くにも避けられないものだったと感じます。

病気のために、治療のために、失われる、身体の働きや身体の部分、変わる人間関係、あると思っていた未来の時間、自分の存在そのもの。

 

緩和ケアの領域では、苦痛について4方面から捉えてアプローチしました。

身体的な苦痛、社会的な苦痛、精神的な苦痛、スピリチュアルペインです。

そうしてその人全体を捉え、受けとめて、関わり寄り添います。

ここでいうスピリチュアルペインというのは、心霊現象の類ではありません。

このスピリチュアルな部分というのは、本来人間のだれにも備わっていると言われています。

 

『スピリチュアルケア入門(窪寺俊之、三輪書店、2010、p13)』を引きますと、「スピリチュアリティとは人生の危機に直面して生きる拠り所が揺れ動き、あるいは見失われてしまったとき、その危機状況で生きる力や、希望を見つけ出そうとして、自分の外の大きなものに新たな拠り所を求める機能のことであり、また、危機の中で失われた生きる意味や目的を自己の内面に新たに見つけ出そうとする機能のことである」とあります。

 

 

 

「神様はその人に耐えられない試練は与えません。だから私はこの状況とともにある」と仰ったキリスト教徒の方がいました。

痛みの強弱や痛み方、薬の効果の切れる時間や副作用をメモし、がんの痛みのコントロールに主体的に取り組み、ひととも関わり、穏やかに毎日を過ごされていました。数分前まで人と話し、手帳を整理し、ふと一人になったわずかな時間に、まるで眠っているようなお顔で息を引き取られました。内面をすべて計り知ることはできませんが、その方が過ごした時間そのものの、穏やかさでした。

絶対的な存在との繋がりを確信している方は私とは違うと感じ、信仰は人を支えると初めて知った、印象的な方でした。

 

ホスピスの発祥はカソリックであり、スピリチュアルペインの考え方も宗教と切り離しきれない。

でも、日本も昔は見取りをするのは医師ではなく、お坊さんだったんですよね。最期はお坊さんが来て、迷わず安らかにあの世に行けるよう先導してくれた。

日本の人は、結構身の回りのいろいろな無機物に命を自然に見出す方もいるように思います。

やおよろずの神様、百鬼夜行、感覚的に馴染みがあるのでは? 基本的にアニミズムなんじゃないかな? と『無自覚な広い信仰』の気配を感じていますが、いかがでしょうね。

 

話が逸れていますが、何か自分自身の存在の基盤が失われそうな危機に遭った時、元々持っている信念、価値観、信仰ってとても大事だと思います。

 

大切なものを失うということは、自分自身の存在も揺らぐ重大な危機。

私は、グリーフも、スピリチュアルペインであると捉えています。

その危機に直面したとき、私たちは、何かを考え、もがき、新たな意味を見出そうとする。

 

今回、『ようこそ 猫又温泉郷』では、ワークを通して、猫さんとのスピリチュアルな繋がりを改めて認識したり、再構築したりすることを考えました。

グリーフは、その人の存在そのものに関わる大切なもの。

がんを患う方やその周囲の方に関わる時は、知り得たその方達の背景を念頭に、その時その時の心身の調子や気分に合わせて、お話を伺ったり、必要な時には質問を投げかけ、あえて何も言わずに(あるいは何も言葉にできず)、そばにいたりしました。

ワークノートでは、お顔や気配のわからない分、慎重に制作を行い、緩和ケア領域で信用している友人にアドバイスをもらいました。

ノートのいいところは、いつでもページを閉じられる、そしてまたいつでも再開できることだと思います。

ワークに取り組む方が、ご自分のペースで、辛い時には休みながら、そして振り返りたくなったらいつでも開いて、ノートを活用してくださったらいいなと思います。

 

よく聞くことですが、古語で「かなし」は「愛し」と「悲し」の意味があります。

旺文社古語辞典第八版(松村明 山口明穂 和田利政編、1996年)を引くと、語感として「その人のことが気になって胸がつまる感じ。自然に対しては、深く心を打たれる感じ」だそうです。

深い悲しみにはそれだけの深い愛しさがある。

ワークを行う方が元々持っているスピリチュアリティが機能し、深い「かなしみ」が、その方を支えるものになってくれたらと祈っています。

猫さんを大切に思う仲間として。


『ようこそ 猫又温泉郷』制作にまつわるおはなし

  1. 猫さんロスのサポートワークノートづくり
  2. 架空の温泉郷が必要だった理由
  3. 大切な存在を失う痛みについて思うこと
  4. 猫又温泉郷の色や挿絵のこと

 A4サイズ 20ページ オールカラー

[発行予定]2024年2月22日

[価格]未定
[販売場所]おはなしの喫茶室STORES、minne、架空ストア and more