去年、海に通っていました。
疫病の流行が始まったり、職場が変わって生活が変化したり、冬、春、初夏……と気持ちの落ち着くところがなく沈んでゆくばかり。
足のつかないよどんだ沼に浸って岸にすがりついているような日々でした。
そんな時に海へ行きはじめました。
メガネも飛ばされそうな風や、海の鳴る音、波にちりばめられる太陽の光に、心がまっさらになるのを感じました。
防波堤を歩いて、砂浜を歩いて、ぼんやりコーヒーを飲んで、突然雨に降られたりもして、週末にそうやって自然から力をもらって、日々を過ごしていました。
自分のなかに力が蓄積されてゆくと、だんだんに受け取ったものが別の形を取り始めます。
そして昨年は海にまつわる物語の断片をよく書きました。
それが「泡沫日記」の原型となりました。
最初「泡沫日記」は「とびだせ! ガリ版印刷発信基地」(https://www.festival-tokyo.jp/20/program/hand-saw-press.html)に参加したzineです。これは原稿を投稿して、ガリ版印刷発信基地さんで印刷してもらって、各地にあるポップアップスタンドのどこかで配布されるというもの。
この時は仙台市にあるブックカフェ「火星の庭」さんに投稿して、ちょうど火星の庭さんのポップアップスタンドで配布をしていただきました。
青色インクのガリ版がとてもすてきでうれしかったです。
内容は〈おはなし手帖(https://twitter.com/ohanasitecho)〉で発信した海にまつわる物語の断片をいくつか抜き取り日記風にまとめました。
2020年の海の断片は、私にとって特別なもので、本としてもまとめたかったので、そこから物語を深めてゆきました。
徐々に変化して、最終的には〈人魚に置いていかれてなかなか立ち直れない男の人〉の物語ができあがりました。
〈人魚〉というモチーフが好きです。
以前、淡水に棲む〈淡水人魚〉を書きましたが、今回は海の人魚です。
上辺は冷たくしかし情熱的、本来は自由なはずなのに何かに囚われていて、そして〈片恋〉〈片道〉〈境界を越えられない〉というイメージを、人魚に持っています。
そういう存在に強く惹かれたのがちょっと優柔不断な〈彼〉です。
「泡沫日記」は、人魚を失った彼が、喪失を見つめて回復に臨む物語です。
1月29日に発行、販売開始する予定です。
お手にとってご覧になっていただけたら、うれしいです。